コロナを契機として家で食事する「宅食」が増加
2020年の1月に国内で初めて感染者が確認され、そこから日本国内ではさまざまなコロナ対策が始まりました。
そうですね。2020年から2021年はコロナの影響でお客様の外出が減り、家で食事をする「宅食」が多くなっていました。2021年の春頃からはコンビニエンスストアやスーパーで冷凍食品が増えはじめたのですが、松屋銀座では、まだあまり冷凍食品を扱っていませんでした。デリカテッセンというか、惣菜の売り上げが伸びていたからです。ただ夏頃になると、ご年配の方を中心に外出自体が厳しくなり「松屋では冷凍食品を置かないのか?」というお声をいただくようになりました。惣菜の賞味期限は長くありませんから、冷凍食品の方が便利であることはすぐにわかります。また、このようなお声をいただいたことで、お客様は高品質な冷凍食品を求めておられることがわかりました。
いえいえ(笑)、すでに販売されている冷凍食品を置くわけではないので、さまざまな準備が必要になります。実際には、約1年後の2022年8月末にオープンとなりました。冷凍食品売り場を作るように辞令を受け、すぐに準備を始めたのですが、わかったのは銀座や浅草界隈の老舗が窮地に陥っていることでした。
銀座や浅草の老舗とコラボ
松屋銀座の周辺にある老舗が窮地に?
外食が減り、外食産業全体がピンチとなっていたことはもちろんですが、銀座や浅草にある名店や老舗が苦しい経営状態となっていたのです。そのような中、松屋が冷凍食品を始めるタイミングが合い、協力体制を築けないかとなりました。お店が独自に冷凍食品を作り上げるのは、人材や機材の問題もあり、なかなかできることではありません。一方松屋には、食品の衛生面やパッケージのデザイン、商品開発などで支援できるスタッフがいます。逆に松屋にとっては、老舗料理店や名店とのコラボは商品の差別化になります。このような理由でコラボが始まり、1年かけて冷凍食品売り場に並べる商品を作り上げていきました。
現在はオンラインショップもあるGINZA FROZEN GOURMETですが、オープン当初は実店舗として始まったのですか?
そうです。はじめは松屋銀座近隣にお住まいの、冷凍食品を持って帰れる30分圏内のお客様を想定していました。ですからオンラインショップはなかったのです。実店舗では、老舗とコラボして開発した冷凍食品のストーリーや、味を確実に再現できる調理方法を店員がご案内します。これはオンラインショップが始まった現在でも変わりません。松屋銀座の地下一階にお越しいただければ、今でも店員が丁寧にご対応いたします。松屋をご贔屓にしていただいているお客様や、年配のお客様のためにも実店舗は残したいと考えています。オンラインショップがあっても、電話でのご注文も多いのです。
全国のお客様にも高級冷凍食品を届けたい
一方で、こんなに良い冷凍食品をそろえているのだから全国のお客様に届けたい、という気持ちもありました。そのような気持ちからオンラインショップは始まったのですが、人気商品はすぐに売り切れてしまうほどの人気となりました。
オンラインショップと実店舗で、品揃えの差はあるのですか?
実店舗では常時350種類ほど、オンラインショップではその一部の100種類ほどを販売しています。今後は徐々に、オンラインショップの商品も種類を増やしていきたいと考えています。実店舗では、オンラインショップから注文が入ると、実店舗の冷凍庫に並んでいる商品を発送しています。高級冷凍食品は手作りが多いので、すぐに品切れになってしまいます。そのため、オンラインショップで品切れになっている商品は、実店舗でも品切れになっています。
350種類とは、かなり多い品揃えですね! それだけの商品を仕入れるバイヤーというお仕事について教えていただけませんか?
バイヤーというと、できあがったものを買い付けるだけの仕事に聞こえるかもしれませんが、GINZA FROZEN GOURMETの場合は、お店と一体になって商品を開発する役目を負っています。また、開発に先だって、魅力的な商品を見つけ出してお店と交渉することや、冷凍技術の相談、商品の値付けなど、さまざまな役割があります。冷凍食品を開発して販売しようとするお店にとって、これは新しい事業であり決して容易でないチャレンジです。お店とは事業について真剣に話し合うことになりますから、商品化まで数年間かかることもあります。私は松屋に入社して31年、食品を担当して26年になります。その経験と知識を総動員して話し合うのです。まずお店との信頼関係を築き、永く共存共栄していくために一体となって商品を開発する。それが松屋のバイヤーです。
料理の味をそのまま冷凍!発達する冷凍技術
先ほどお店と冷凍技術の相談、とおっしゃっていましたが、冷凍技術には多くの種類があるのですか?
一般的な冷凍食品やGINZA FROZEN GOURMETで扱っているような高級冷凍食品の普及は、冷凍技術の発達なしには実現できなかったでしょう。また冷凍技術は、料理によってそれぞれ適切なものを使わなければなりません。
急速冷凍の技術が味を閉じ込める
少し難しい話になりますが、冷凍の技術には強力な冷気を食品に直接当てて急速に冷凍する方法(エアブラスト冷凍)や、液体窒素や液体アルコールなど、極低温の液体に食品を直接浸して冷凍する方法(液体凍結)、他にも真空冷凍やプレート冷凍などの方法があります。これらの方法はいずれも-40℃程度で食品を急速に冷凍し、食品の味を閉じ込めてしまいます。このような方法を総称して急速冷凍といいます。
食品の種類や料理によって冷凍方法を使い分け
この急速冷凍の方法を、食品によって使い分けます。たとえばハンバーグであれば、あらかじめエアブラストで冷凍してから真空パックをしないと形が崩れてしまいますし、カレーやシチューのような液体ものであれば、先に真空パックをしてから液体凍結で急速冷凍します。形が崩れやすいスイーツも液体冷凍の出番ですね。
冷凍が一番難しいのは、天ぷらです。お店の方に油の量をあらかじめ減らしてもらって、野菜を入れないようにしてかき揚げを作ってもらっています。また解凍する時も、電子レンジで解凍するとカリカリ感がなくなってしまいます。必ず説明書の通りに解凍してくださいね(笑)。
冷凍食品は、油の量や水の量を綿密に計算しながら元となる料理を作ります。すべて逆算で作らないといけないのです。それが冷凍食品の難しいところ。だからお店との共同作業が欠かせません。
解凍は必ず説明書の通りで!おいしく味わうコツなんです!
ものすごく強調されていましたが、解凍は自己流ではいけないのですね?
そうですね(笑)、もちろん可能な限りで良いので説明書の通りに解凍していただきたいです。高級冷凍食品は、手軽さや時短だけを求める冷凍食品とは違います。お客様には、GINZA FROZEN GOURMETの商品で贅沢な食体験を楽しんでいただきたいと思うからです。
実店舗でも、お客様に説明をする時は必ず説明書の通りに解凍してくださいとお願いしています。すぐ持って帰るから、もしくは家が近いから冷やさなくていい(保冷しなくてもいい)というのも、できればおやめください。-18℃のコールドチェーン(冷凍の温度を保ったままの運搬)を守っていただきたいのです。このコールドチェーンと説明書通りの解凍を守っていただければ、老舗や名店のできたてグルメをそのままの味で楽しんでいただけると思います。
オープンから3年。多くのお客様からご意見をいただく
GINZA FROZEN GOURMETのオープンからもうすぐ3年を迎えます。3年目を迎えて、何か思われることはありますか?
一から立ち上げに携わりましたから思うことは多いのですが、一番感慨深いのは多くのお客様からご意見をいただけていることです。とくに実店舗では、多くご意見をいただきます。たとえば「この商品は少し量が多かった、もうちょっと少ない方が食べやすい」とか、「地方のグルメでこんなにおいしいものがあるのだけれど、冷凍食品で作ってもらえないか」といったお声もありました。お客様が、わざわざ実店舗を訪れてご意見をくださる。期待されているからこそ、ご意見をいただけるのだと思っています。こんなに嬉しいことはありません。
実はGINZA FROZEN GOURMETの注文の6~7割は、ギフトとして活用されています。ご自分で一回食されたお客様が、誰かに同じものを送りたい、おじい様やおばあ様、お世話になった方にギフトとして送りたい、とご利用いただいているわけです。受け取って喜んでいただけると思うものでなければ、大切な方やお世話になった方に送るはずがありません。GINZA FROZEN GOURMETは、これからもこのようなご期待に応えていかなければと思っています。
お客様に贅沢な食体験を届ける
また、継続的にお客様に贅沢な食体験をお届けするには商品の拡充も重要だと考えています。先日もある農家の方から、フルーツの冷凍を作りたいと相談されたことがありました。冷凍食品の開発には非常に時間がかかりますが、お店や生産者の方と協力して魅力ある商品を拡充していきたいと思います。これからも松屋の経営方針にある「共存共栄」の精神でWin-Winの関係を築き、お客様に贅沢な食体験を届けていきたいですね。
オープンから3年を迎えるGINZA FROZEN GOURMET。これからも期待できそうですね。本日はありがとうございました!